はぐれ雲。

リサの細い腕が、亮二の背中にからみつく。

押し寄せる快感の波に、リサは思わず爪をたてた。

「亮二、愛してる…」と囁きながら。


バスルームからシャワーを浴びる音が聞こえる。

リサが亮二の上着のポケットをまさぐると、確かな感触があった。

それを取り出すと、掌の上で転がす。

あのダイヤのネックレスだった。

「ふぅーん、これをあの女にね」

一糸まとわぬ姿で鏡の前に立つと、そのネックレスをつけ正面から、横から自分の姿をチェックする。

<あたしはきれいだ、誰にも負けない>

リサの顔が険しくなる。

<なのに、どうして亮二は…>

その時、亮二が髪を拭きながらバスルームから出てきた。

「何か着ろよ」

そう言って、持っていたバスタオルをリサに投げる。

彼女はそれを体に巻きつけると、亮二の腕にしがみついた。

「もう、亮二ってば。プレゼントがあるなら、ちゃんと渡してよね」
わざとらしくそう言って、ネックレスを持ち上げる。

「おまえ、それ…」

「あなたの上着をハンガーにかけようと思ったら、落ちてきたの。もう、びっくりしちゃった。
あたしサプライズは苦手なの。リアクションに困っちゃうから」

亮二は何も言わずに、髪を拭き続けた。
短い髪はとっくに半乾きだったにもかかわらず。

リサはそんな彼の反応をもっと確かめようと思った。

「でも、ちょっと私には地味かなぁ」

彼の前へ進み出ると、ダイヤを指で弾いた。

「ねーえ?亮二もそう思わない?」

明らかに何かを含んだ言い方。

それに気付かない亮二ではない。

彼は白いカッターシャツに袖を通すと、子どもをなだめるような優しい声で

「おまえによく似合う、リサ」と、彼女の頭に手を置いた。

リサの顔が一瞬ひきつる。

<あたしのために買ったんじゃないくせに>

リサは気を取り直すと、もう一度彼に言った。

「ねぇ、最近カタギの女と会ってるって聞いたんだけど。それって仕事?」

「ああ」

手元のボタンを留めながら、抑揚のない声で亮二は答える。

「人妻って話じゃない」

「そうらしいな」

まるで他人事のようなその態度に、リサは再び苛立った。