はぐれ雲。

あたりを見回すと、客も少なく、店員も雑談している。

そっと学生服の下に弁当を滑り込ませた。

何回やっても、この瞬間だけは慣れない。

心臓が大きな音で打つ。

もう一度辺りを見回すと、直人は雑誌コーナーに立ち寄った。
ここで少し時間をつぶして出て行けば、怪しまれないだろう。

若い男が一人、すでに雑誌を立ち読みしていた。

直人も弁当の入った腹を軽く押さえながら、もう片方の手で雑誌を取った。

不意に隣の若い男が、直人の目の前にある雑誌に手を伸ばした。

そして、「返してこいよ」という低い声が耳元で聞こえた。

「え…」
全身が凍りついた。

<見られていた?>

直人は足がガクガクした。

その男は直人の学生服の下から弁当を取り出すと、天井を見るように目で合図をした。

防犯カメラだ。

「あ…」
直人は思わず目を閉じる。

男はその弁当を元の場所に戻さず、後ろの化粧品の陳列棚に無造作に置いた。

「来いよ」

脅されるにちがいない、咄嗟に直人はそう思った。
恐怖で動けない。

「来いって」
もう一度男はそう言うと、直人の腕を引っ張った。

どこに連れて行かれるのだろう。

直人の足はもつれ、こけそうになるが男はかまわず進む。

しばらくして、
「おまえさ、いつも公園で本読んでるやつだろ」突然男がそう言った。

恐る恐る「はい…」と答える。

「何読んでんだよ」

直人はやっと聞き取れるくらいの小さな声で、本の題名を告げた。

「おお、あれか。読んだことあるぜ」

「え!本当に?」

直人は今までの恐怖心が吹っ飛んでしまったかのように、饒舌になった。

「それで、俺が思うに、その主人公っていうのは…」

本の話に夢中になっていた。

相手が聞いていようがいまいが、そんなこと気にならないくらいに。

彼の中で、話の内容がクライマックスを迎えようとする頃、「入れよ」と男が急に立ち止まった。

直人は話の途中で腰を折られたことに一瞬不満げな顔をするも、男に連れてこられた場所がどこかわかると、目をむいた。