はぐれ雲。

橘直人〔たちばななおと〕、
坂井浩介〔さかいこうすけ〕、
湊川リサ〔みなとがわりさ〕、
この3人は亮二がリーダーだった暴走族の一員だった。

直人は幼い頃から、両親から虐待を受けていた。
母の再婚相手の男から毎日のように暴行を受けていたが、実の母は見て見ぬふり。

子どもより、男への愛を選んだのだ。

だから直人は一人で痛みに耐えた。

しばらくすると痛みすら感じなくなり、殴られているときは、自分ではない、他の誰かになっていた。

ある日物置に閉じ込められていた時に、古いダンボールを見つける。
中からは直人の実の父親の物なのだろう、埃まみれの文庫本がたくさん出てきた。

埃っぽい薄暗い光の中で、ひたすらページをめくる。

こうして本が彼の心の拠り所となり、学校が終わると図書館で暗くなるまで過ごすようになった。

本の中では常に自分は主人公だった。
温かい家庭で育った平凡な少年であったり、超能力で事件を解決する探偵であったり、無実の罪で逃亡生活を送る中年男だったり…

本の世界では、誰も彼に手を出したりしない。


中学生になると、学校にも行かずに公園で一日中本を読んでいた。

しかし、空腹は逃げようとしても逃げることはできない。

いつも、残ったわずかな冷ご飯に水をかけて食べるか、スーパーやコンビニで万引きした弁当を、暗闇でひとり食べた。

何を食べているのか、どんな味なのかさえ、わからなかった。

ただ、胃に何か入ればよかった。

何かを食べて、おいしいと感じたことなんてなかった。

ある日、寒さと飢えに耐えかねて直人はコンビニに入る。

陳列する弁当が、まるで「食べてくれ」と、直人に呼びかけてくる。

直人はその中の一つを手に取った。

何が食べたいとか、そんな気持ちはなかった。

ただ、空腹を満たしたかった。