はぐれ雲。

その日も亮二は駅まで送ってくれた。家まで送ると言ったが、断った。

達也に見つかる云々ではなく、今夜はこれ以上彼と一緒にいる、自分を抑えられなくなりそうだったから。

「今日は…ううん、今日もだね。ごちそうさまでした」

ペコリと頭を下げると、髪が揺れた。

「ラーメン代はおまえが払ったじゃねぇか。まあ当然だけどな」

「もう、蒸し返さないでよ」

二人はお互いを見て笑った。

「…気をつけて帰れよ」

おやっという表情で博子は彼を見上げる。

「新明くん、ちょっと成長したわね」

「何が」

「気をつけて、なんて、私初めて聞いた」

そこまで言って、また笑ってしまった。

「つまんねぇこと言ってんじゃねぇよ」

<そうよね。本当につまらないことよね。気をつけて、ただそれだけの言葉なのに敏感に反応してしまう。でも私がそんな優しい言葉を初めて聞いたからといって、あなたにとっては、たいしたことでも何でもないのよね。あなたは他の女の人たちに、数え切れないくらいのこんな言葉を言ってるんだろうし…>

博子は自分が嫉妬していることに気がついていた。

彼女は頬にかかる髪を、そっと撫でると静かに言った。


「じゃあ、私これで」

「またな」

亮二も静かにそう言う。

「…うん」


その言葉に何の確証もないことはわかっていた。

いつ二人の間が途切れるかわからない。

けれど、博子はその言葉にすがるような気持ちだった。

<また、ね、新明くん…>