「あの時は本当にヒヤヒヤしたのよ。新明くん全然技出さないし」
亮二は平然として「あいにく、俺は省エネ剣道なんだよ」と目の前にある寿司を一口で食べながら、そう言った。
「ずいぶんなエコね」と博子は笑いながら返す。
「そういえば、あん時俺が優勝できなかったら、おまえの言うこと何でもきくって言ってただろ?もし負けてたら、俺は何をさせられたんだ?」
「あぁ…」
そうだった、と博子は思い出した。
「私のこと、どう思ってるのか聞かせて」というつもりだった…。
でもやっぱり聞くのが怖くて、関係が壊れるのが嫌で、結局亮二の勝利を心から願った。
「…何だっけ、忘れちゃったわ」
「ったくよ、なんだそれ」
彼女は目を伏せると、あがりを一口飲んだ。
亮二といると本当にあの頃に戻ったみたいだ。
封じ込めた想い出が次から次へとあふれ返ってくる。
まるで、やっと居場所をみつけたかのように、心の奥底から湧き上がってくる。
ただ、やはり心のどこかで達也のことがひっかかっていた。
申し訳ないと、心底思う。
ごめんなさいと、胸が苦しくなる。


