「はじめ!」の主審の声に、歓声と拍手が場内に沸き起こる。
亮二は赤いたすきを背に付けていた。
博子と真梨子は観客席から決勝戦を見守る。
「新明先輩の相手の人、隣の県の藤本って人なんだけど、小学生の時から県下大会とか、いろんな大会で優勝してるらしいよ」
さすが情報収集力に長けた真梨子、早速相手の事を調べたようだ。
しかし、その情報がかえって博子を不安にさせる。
白いたすきの藤本の方が、明らかに技を出す回数が多い。
亮二は相手の出方をみているのか、かわすだけだ。
竹刀の先がお互いの動きを、心を探る。
「新明先輩も強いんだから、大丈夫よ」
真梨子がそっと肩を叩いた。
「うん…」
しかし、膝に置いた手が震える。
自分の試合でもこんなに緊張したことはない。
博子は、亮二に渡すはずだったお守りを見つめた。
突如、わぁっと、会場中に大きな歓声があがった。
ドキッとして、亮二たちに目をやる。
副審の一人が白い旗を揚げたが、主審ともう一人の副審が取り消したところだった。
「やばかったね。小手とられるとこだった」
真梨子がつぶやく。
<新明くん…>
体育館中の観客がこの試合の行方を見守っている。
想像しただけでも、気が遠くなるようなプレッシャーだ。


