はぐれ雲。


痛いほどの日差しが照りつける日だった。

博子と真梨子は中学校の一学期の終業式を終え、急いで電車に飛び乗った。

その日は、周辺五県の高校生が一堂に会して行われる剣道の新人戦が行われていた。

会場に着くと、すでに3位決定戦にまで進んでいた。

博子たちはロビーに張られたトーナメント表を見上げる。


「新明亮二」と書かれた名前の上に、太くて赤いラインが折れ曲がりながら頂上へと駆け上がっていく。

その力強さに、まるでジャックとマメの木みたいだ、なんてのんきに博子は思った。

行き着いた先には亮二ともう一本、別のラインがあるだけだ。


「決勝まで進んでる!」

この2本のラインのうち、1本だけが頂に立つことができる。
博子はさらに拳を握り締めた。

この時、彼女にはどうしても試合前に亮二に渡したいものがあった。

それは小さなお守り。

彼の勝利を願って昨日、近くの神社にもらいに行った。

その後、そのお守りを入れる巾着を徹夜で作ったのだ。

別になくてもいいものだったが、博子も女の子。自分の作ったものを好きな人に持っていてほしかった。

紫の巾着に赤い紐を通す。

自然に渡せるように、何度もイメージトレーニングした。気が付けば、空が白み始めていたのには驚いた。


博子はセリフを確認しながら、亮二を探す。

やっと試合会場入り口で、入念に竹刀のチェックをしている彼を見つけた。

紺の胴着姿の彼を見るのは久々だった。

彼は常に胴着を綺麗に着る。
綺麗、いや美しくといったほうが適当かもしれない。

ウエストでキュッ締めた袴姿は、気品さえ感じる。

防具や竹刀にも細心の注意を払う人だった。

練習中に後輩の胴紐や面紐が解けると、普段からは考えられないくらい声を荒げて怒った。

「身を守るもんをしっかり付けられないで、どうすんだよ!」と。


「新明くん!」

「何しに来たんだよ」

亮二は彼女の声を聞いただけで視線を向けることなく、ぶっきらぼうに答えた。

「何って、応援に決まってるでしょ。これ、近所の神社でもらってきたの」

何度も練習していたにもかかわらず、その声は上ずっていた。