はぐれ雲。

約束した時間よりも早く、博子は駅前広場で亮二を待っていた。

今日はこの前のように、ジーンズ来るようなことはしなかった。
持っている服の中で一番いいものを選んだつもりだ。

高級な服を着る亮二にとっては、これでもジーンズと変わらないんだろうな、そう思う。

気になって、近くの店のショーウィンドウに自分の姿を映してみた。

<まだ30になったばっかりだし、まだ大丈夫よ、たぶん…>

前髪を整えながら、博子は自信なさげに頷いた。

「今日は遅れなかったな」

突然ウィンドウに亮二の顔が映り、慌てて振り向く。

容姿をチェックしていたのを見られたかと思うと恥ずかしくなった。

<これじゃ、まるで恋する乙女じゃない>

しかし亮二はそんなことを気にすることもなく、博子を頭のてっぺんから足の先まで見て、「まあまあだな」と笑った。

「なによ、その上から目線。いつからファッションチェックなんかするようになったの」

そう言って、博子は口をとがらせる。


「腹減ったな。何が食いたい?」

ポケットに手を突っ込んだ亮二が、辺りを見回した。

「何でもいいわ」

「何か言えよ、面倒くせぇな」

博子は考える仕草をした。

「んーじゃあね…」


長い行列ができていた。

すでに一時間近く並んでいる。

博子が思った通り、亮二は機嫌が悪かった。

そして舌打ちしながら言う。

「たかがラーメン一杯で、なんでこんなに待たなきゃなんねぇんだよ」

「そんなこと言わないで。ここ、すっごくおいしいんだって。私ね、一度食べてみたいの」

「ったくよぉ」

サングラスをかけ黒いスーツを着ている亮二は、周りから完全に浮いていた。

明らかに怖そうだ。
不機嫌な亮二が口を開くたび、博子たちの前後に並ぶ人たちの顔が強張る。

博子はそんな亮二に小声で言った。

「みんな怖がってるじゃない。もうあと少しだから」

昔から並んだり人混みが大嫌いなことを知っていたけど、人は何年経っても変わらないところはあるんだな、とつくづく思う。

それもまた博子にとっては嬉しいことだった。