「私ね…」
博子がストローをいじりながら、口を開いた。
「私、真梨子から新明くんのことを聞いて、彼に一目会いたいって、正直思った。達也さんがそばにいたのに、新明くんのことを考えてた。あの夜、彼に再会したら余計に…」
「で、わざわざ確かめに行ったのね。圭条会の組員かどうかを…」
「自分でもどうかしてたと思う。会いに行っちゃいけなかったのよ。後戻りできなくなるってわかってたんだけど…」
「博子」
「やっぱり忘れられなかった、彼のこと」
真梨子はじっと博子を見た。
「達也さんには申し訳ないって心底思ってる。あんなに優しくて私を大切にしてくれて…。だからもう新明くんに会っちゃいけないって思うのに、心のどこかで、また会いたいって。このままだと、本当に私ズルズル…」
「いいじゃない」
「え?」
「いいじゃない、あんたが彼を好きって感情は別にして、事実、浮気とか不倫とか、男女の一線を超えるような深い仲になってないんでしょ。昔ね、弁護士の男と付き合ってたんだけど、不倫ってのは肉体関係があるかないか、なんだって。ただ会って話して、食事するくらいならいいじゃない。私だって彼氏とは別に男友達と飲みに行ったりするし。久々に再会した友達に会ってるだけじゃない」
でもね、と真梨子は続けた。
「いつかはあんたたちが会ってることはバレるわよ。誰が見てるかわかんないから。たとえ、博子と新明先輩は深い関係でなくても、暴力団幹部と懇意にしてるってことで、達也先輩の職場での影響は大きくなるよ。あんたも達也先輩も、失うものが多いよ、きっと。それだけの覚悟はいるんじゃない?」
博子は目を伏せた。
「わかってる」
<そんなこと、わかってるよ、真梨子。何度も何度も自分に言い聞かせたもの…それでも、彼に会いたいって気持ちが抑えられないのよ>


