はぐれ雲。


「新明先輩にたくさん女の人がいても、気にならないの?」

真梨子はタルトをほおばりながら、聞いた。

「ならないわ。私、結婚してるし。うーん、何て言っていいのかわかんないけど、新明くんにそんな恋とかっていう気持ちはないし…」

「じゃあ、これからどうするの?」

もう一口真梨子は口に運ぶと、フォークで粉々になったタルト生地を真顔でつつき始めた。

彼女のこういう態度を見るたび、聞く気があるのかないのか、何年付き合っててもよくわからない。

聞いていないのかと思えば、的を射たしっかりした答えが返ってくることもある。逆に聞いてくれてると思ってても、「え?そんなの聞いてないよ」で終わってしまうこともある。

博子はとりあえず聞かれた質問に答えた。

「もう会うつもりはないの。ただ一緒にいると、あの頃に戻ったみたいで楽しかった…」

「は?なにそれ。完全に博子、新明先輩に堕ちてるんじゃない?ほら昔に流行った、『友達以上恋人未満』ってやつ」

真梨子は手を叩いてカラカラと笑う。
どうやら聞いていたようだ。

「違うわよ、そんなんじゃ」

「じゃあ、兄妹愛って感じ?違うでしょ?」

博子は首をかしげた。


なんと表現していいのかわからない。

ただ会いたい…

それだけ。

達也がいるのに、それなのに想ってしまう。

あの頃に戻りたい、と。

兄妹愛、そんなもので言いくるめられる類ではない気がする。

「達也先輩はそのこと知ってるの?」

博子が答える前に、真梨子が突然話を変えた。

「言って…ないもの」

「まぁ当然よね、言えるわけないよね。だって達也先輩は、新明先輩の存在すら知らないわけでしょ?」

博子は頷いた。

沈黙が続く。

彼女はあたりを見回した。

周りの女性客は何を話しているんだろう。とても楽しそうで、うらやましい…

自分とは違って、きっとウキウキするような話題なんだろう。