はぐれ雲。


「おっと、どうしたの?」

向き直った達也に、博子はもう一度抱きついた。

そして優しく包み込む彼の腕の中で、せがんだ。

「抱いて」と。

「…珍しいね、君からなんて」

「言わないで!そんなこと…」

「ごめん」


達也のパジャマのボタンを一つ、また一つと博子が外していく。

彼のひきしまった胸があらわになると、博子は潤んだ瞳で達也を見た。

そっと彼の胸に頬を寄せる。

広くて温かくて…

<私には、この人がいるんだから…>

そして細い腕で、精一杯彼を抱きしめた。

「博子」

それから奪い合うようにお互いを求め合った。

<お願い、達也さん。新明くんを忘れさせて。彼を想う時の胸の高鳴りは、幻なんだと、そう思わせて。達也さん、私の心をあなただけが奪って>

いつも以上に博子は彼に応えた。

濡れた髪から甘い香りが漂う。

博子は達也の背中に回した腕に力を込めた。

「達也さん…」

あの人を打ち消すかのように、彼女は何度も夫の名前を呼んだ。


眠る彼の横顔をずっと見ていた彼女は、汗ばんだ達也の胸にそっと頭をのせる。

力強い鼓動を感じながら、一晩中、彼に対する罪悪感でいっぱいだった。