はぐれ雲。

見たことのない、艶やかに光るハイヒールが一足。

明らかに新品で、ブランド物。

常々、博子はこう言っていた。

「ブランド物?いらない、いらない。私そういうの苦手なの。肩凝っちゃう」

達也は妙に胸騒ぎがして、バスルームを振り返った。



一方博子は、亮二に買ってもらった靴が玄関に置きっぱなしであることをシャワー中に思い出した。

濡れた髪をろくに拭かず、リビングにいる達也の様子をうかがう。

運良く、彼はテレビを見ている。

そっと玄関に行き、音を立てないように靴箱にハイヒールをしまってから、戸締りをし忘れていたことに気付いた。

ドアに手を伸ばすと、

<あれっ?>

鍵はしっかりかけられ、チェーンもしてある。


達也だ。

彼は鍵をかけるときに、この靴に気付いたのではないか。

あんなブランドものを持っていないことは、彼も知っている。

<達也さん…>

博子は達也の後姿を見た。

彼の広い背中がいつになく寂しそうに感じる。

罪悪感からそう思うだけなのかもしれない。

でも…

思わず博子は彼の背後から抱きついた。