Fahrenheit -華氏- Ⅱ


久しぶりに見た。あの気味の悪い手。


最近見てなかったから気が緩んでいたのだろうか。


何でこのときになって、あんなにもハッキリ見えたのだろうか。


消えた、とはいってもすぐに扉を開ける勇気が出ず、ドアノブに手を置いたままでいると


「傘、お貸ししましょうか?」とレジ係の店員が申し出てくれた。


「いえ……大丈夫です。ちょっと…予想外だったので…」


「本当ですよね、今日の降水確率0%だったのに。通り雨ですかね」と暇をしているのか店員も窓の外を眺めて目を細めている。


「すみません、ごちそうさまでした」と小さく会釈して俺はドアノブを押した。



―――当然ながら外は雨が降っていた。




二村が立っていた。


二村は笑っていた。




握った拳が震えた。このまま手を持ちあげてしまったら、殴りかかってしまう。


俺が必死に決意を固め、それでいて実行したって言うのに、瑠華を守るところどか、その前に俺が警察沙汰になる。


二村は俺が身動きできないことを知っているのだ。





「これで満足か」と俺は低く問いかけた。皮肉と嫌味をたっぷり込めて。