「前のオトコに未練がある女はイヤだが、今のオトコを利用してまで前のオトコを陥れようとする女はもっと嫌だ」
俺の言葉に瑠華は目を開いて俺を見つめていたが、その口から何か語られることはなかった。
本当はこんなこと言いたくないし、本心じゃない。
瑠華がマックスを恨む気持ちは―――それが彼女や俺の中で処理できない膨大なものであろうことは分かる。
悔しいし、苦しい。
―――分かってるんだよ。
「信頼関係だよ、君が壊したのは。
しかも会社の取り引きを利用したことがもっとも許せない」
嘘、だよ―――
壊れてなんかない。
それはいつも俺と君の中であったかく、常に何らかの形で守られている。
俺は小さく吐息をつき
「正直、この稟議の裏を見つけたとき悩んだよ。一週間弱。
俺は今まで君のことを尊敬してたし、信頼していた。
俺たちを繋げたのはその部分があったのかもしれない、そう思うと……やりきれなかった。
ああ、俺は裏切られたんだ、って―――」
―――裏切られた?
何て使い勝手が良い言葉なんだろう。本意ではない別れを切り出すには最適だな。
ここに来て瑠華が、
「それは違っ……」と言いかけて、慌てて口を噤む。
俺はテーブルの上でぎゅっと拳を握った。爪が掌に食いこむ程強く。
でも痛みは感じない。
「瑠華も―――結局、真咲と一緒だ。
浮気したわけじゃないけれど、俺のことを想う気持ちよりヴァレンタインへの恨みの方が強い。
ある意味浮気よりタチが悪いのかもな。
俺は、そんなひとと未来を一緒に歩める程、強くない」
俺は握った拳を開け、テーブルに肘を付きながら顔を覆った。
……強く―――なりたい。
どんなことがあっても、瑠華を守れる強さがあったのなら。
「強く……ない。
強くないんだよ、俺は」
本心だった。
瑠華が顔を上げた気配があった。俺の視界の端に入った栗色の髪が揺れたからだ。
そのサラサラと触り心地の良い髪に、もう二度と触れられないのだろうか…
「もう一度言う。
何事もなかったかのように付き合っていくほど俺は強くない。
はじめて、無理だと思ったよ
別れよう」



