「バイオリンとは考えたものだよ。
画像もあったが、あれは心音ちゃんがデザインしたものだろ?
薄気味悪い天使の顔がついた……俺は初めて見るタイプのものだったけれど、その業界人なら一目見て価値が分かるんだろうな。
実体があるものなら信憑性もあるし。
実際、そのブツのプリントを、大学のツレのツテで今都内のアンティークショップで働いてるかなりの目利きのスタッフに見てもらったら、『恐らくホンモノだろうっ』て…」
俺は一旦言葉を切り、書類を指で手繰り寄せ瑠華の前でつまみふらつかせる。
「君たちはよぉく分かってるみたいだな、
この業界”美術品ビジネスが最も危険”であること」
瑠華が目をまばたく。
「”美術品”は純粋に愛でる為に買う人もいるだろうが、ごく稀だ。美術品は時として、犯罪者や独裁者、テロリストに利用される。
そのセリに名を連ねていたのは世界中の富豪たちだった。ただ純粋に“幻の”名器を所有したいのか、それともそれを利用……転売なんかで資金洗浄を考えてるんだろう。
ヴァレンタイン一家に近かった君たちも、いや君の場合『一部』だったときもある。彼らの裏の稼業を知らなかった筈もない。
この怪しげなクラブは、どうやら彼らが脱税やマネーロンダリング、その他違法行為を行うクラブみたいだからな。
そこに小野田専務の名も書かれていたが、これはカモフラージュだろう、小野田専務には桂林のリゾート開発権利をすでに引き合いを掛けているんだろう。
問題はそこじゃない。
マックス・ヴァレンタインの名前も載っていたよ」
俺は早口に言い切った。じゃないと、決心が揺らぎそうになる。
再びずいと書類をテーブルに押しやる。
「君は、心音ちゃんと結託して偽りのオークションを仕立て上げた。小野田専務も巻き込んで、君がマックスを恨む気持ちは分かる。
―――けれど、異常だ」
俺が眉間に皺を寄せると、瑠華はテーブルに置かれた書類の上にそっと手を乗せた。きれいなベージュ色が上品に乗った指先、白くて細い指。少し低めの体温の手のひら。
それをもう二度と―――……
いや、俺はもう一度その手を握る。
だから今は
ごめん
「君は俺を―――利用した、
裏切った」
俺は瑠華を睨むと、どこにこんなに低い声を隠していたのか、と思われる程冷ややかな声で言い腕を組んだ。



