Fahrenheit -華氏- Ⅱ



「ちょっと気になったから色々調べたんだ」


「調べた、とは?」瑠華は運ばれてきたコーヒーの存在を忘れてしまったのか、書類と俺との間でしきりに視線をいったりきたりさせている。


「ホームページを見た。そしたら変な場所にURLを発見してね、それを開いたらSpecial auction clubってなってて…見るからに怪し気だったよ。


出どころは言えないが、あるツテを頼ってそのIDとPWを入手した結果、裏の取り引きサイトを見つけた。


桂林のリゾート開発のオークションは本物だろうが、その裏で闇オークションでセリにかけていた“もの”は―――」


俺はここになって言葉を切った。


「何ですか」と瑠華が先を促す。





「バイオリンだったよ」





瑠華がまばたきすらせず、唇をきゅっと結んでいる。


この表情から、動揺と言うものは見受けられなかった。あくまでシラを通すつもりなのか、それとも本当に知らないのか。


「幻の名器、ストラディヴァリに匹敵するものだそうだね、名を何と言ったか……長すぎて分からないが何百億と言う価値の」


瑠華は書類をズイと俺の方へ戻して


「それが私と何の関係があると言うのですか」


ここに来て初めて反論(?)のようなものを込めて言ってきた。


「関係……ある!」


俺は少し強めにテーブルを叩き、その振動でかカップの中のコーヒーが揺れた。


トイレかどこかに行く途中だったのだろう、近くを通りかかった若い女の客がびっくりしたように一瞬立ち止まったが、それでもぶしつけにじろじろ見てくることはせず、慌てて立ち去って行った。


「発起人と進行役が君の名前になっていた。その“ある人物”はそのHPを作成したのが心音ちゃんだと言うことも突き止めた。


君たちは―――、一体何を考えてる」



ここに来て瑠華は動揺を見せた。忙しなくまばたきを繰り返し、何かを言おうかと口を開くも、結局その口から何も語られなかった。


何か……何か言ってくれ―――本当の理由が何かある筈だ。俺を利用してまでマックスに報復を考えている、と言うことを否定してほしい。


それがその場の嘘だとしても。


俺はその嘘がどんなに汚いものでも、信じる。




切に願ったが、同時に聞きたくなかった。




真実はきっともっとクリーンな筈だ。瑠華がこんなことする筈がない。


そう分かっていても、聞いてしまったら俺は彼女のその手を取るだろう。


そうしたら、俺は



瑠華を守れない。