Fahrenheit -華氏- Ⅱ



二村が隣のブースに行ったのをきっちりと目で確認して


「ごめん、変な空気にしちまって」と俺はわざとチャラけて笑った。


空気を和ませるために言ったわけだが


「いえ……」と佐々木は顏を青くさせて俯いている。何せ付き合いが長いからな。俺が本気かそうじゃないか理解しているのだろう。


つまり俺が二村に本気で怒ったと言うことに気付いている。


瑠華は相変わらずの無表情で―――感情が読み取れない。


「仕切り直ししよう!」


俺は両手でパンっと手を叩いて


「前回ダブルブッキングと言うトラブルでアメリカンウェストスターさんを優先させてしまった。今回は絶対セントラル紡績さんの取り引きを成功させたい」


と二人を眺め


「俺の確認不足で申し訳ないが、今回は二人にこの引き合いを頼みたい」と頭を下げる。


「そんなっ!確認不足なんて…!ダブルブッキングなんて今まで無かったわけじゃないですし」


と佐々木は慌て、代わりに瑠華は


「この業界、そう言うトラブルはつきものです。お気になさらず」と言いながらさっきの俺の暴挙にも動揺することなく、早速PCのキーボードに指を走らせている。


仕事が早い、のは相変わらずいいことだし、二人の理解を得て良かったものの、俺はこの日“わざわざ”休日出勤してきた二村が


気になる。


もしかして俺が“決着”を付けようとしているのを―――気付いたかもしれない。