Fahrenheit -華氏- Ⅱ



「あ、おはよ~、ごめんね、急に呼び出して」


俺は普段通り、挨拶できてるだろうか。


ちゃらんぽらんの不良上司って役割を―――演じられているだろうか。


そんな不安をよそに、瑠華は何事もなく自分の席に腰を下ろした。


昨日の美しいドレスとはがらりと変わり、黒いニットと上品なグレーのチュールスカート、バッグは淡いブルー、髪も昨日のカールが大きく立体的な感じとは違って普段の緩巻き。と言ったいでたちだった。


昨日のドレス姿の瑠華も最高にきれいだったが、普段の瑠華もやっぱり最高に可愛くて。


「すみません、遅くなりまして」と瑠華は耳に髪をかけながら俯き加減にPCに向かう。


それすらも上品で洗練された美しさだ。


「いやいや、俺が悪いのヨ。ごめんね、二人とも休日出勤させちゃって」


俺はわざとらしい程苦笑を浮かべて顔の前で手を合わせる。


「このMother’s gate。の件、早急にセントラル紡績さんとの取り引きで固めたくてさ」


と言い、書類をひらひらさせると瑠華は耳に指を置いたまま、目を開いてこちらを見てきた。


「ああ…」


佐々木もどこか納得したように頷き


「双方の意思が合致したから、早急に引き合いに掛けたいわけヨ。一日でも遅れると他社が申し出る可能性があるから、できればオークション前に話を固めたい」


と言うと


「分かりました」と瑠華の相変わらず淡々とした言葉が返ってきて、「それで、私は何をすればいいのでしょうか」と素早く次の行動に移ろうとする。


「柏木さんはこの書類の翻訳、佐々木は発注商品の取りまとめ。俺はその総括。


お願いできる?」


と二人を見ると、瑠華は小さく頷き佐々木は「はい!」と威勢よく答えた。