Fahrenheit -華氏- Ⅱ


久しく開けていなかったのだろう、中は少しばかり埃くさかった。


両脇に置かれた木製の、連なる長椅子たち。


その背もたれを撫でながらそっと祭壇へと向かう。


祭壇の向こう側の壁にはこれまたステンドグラスの窓があり、その手前には白い十字架が掲げてあった。


俺はそっと片膝と片手を床に付き、顔を上げ十字架を見上げると、今度はもう片方の膝も床についた。


宙で指で十字を切り、胸の前で手を組み合わせ、そっと目を閉じた。


「天にまします我らの父よ。


我らに罪を犯すものを我らが(する)すごとく、


我らの罪をも赦したまえ。


我らを(こころ)みにあわせず、


悪より救いいだしたまえ。


国と力と栄えとは、


限りなく(なんじ)のものなればなり。




アーメン」



俺がそっと祈りを捧げていると、おばさんも隣で立ったまま同じように手を合わせていた。


祈りの言葉なんてすっかり忘れてるかと思いきや、思ったより覚えているものだ。



「許しを請いにきたの?」



ふとおばさんに聞かれて、俺は思わずおばさんを見上げた。


立ったままのおばさんの背中に太陽に反射したステンドグラスがきれいに影を落としていて、普通のおばさんなのに、やたらと輝かしく見えるのが不思議だ。


それともここが教会と言う特殊な場所だからか。


「罪を―――犯したの?」


おばさんはまたも聞いてきた。ただ、その顔は恐怖や嫌疑と言った表情ではなく、ただおっとりと微笑んでいた。まるで聖母マリアのようだ。


俺は俯いた。


「―――これから、です」