Fahrenheit -華氏- Ⅱ


聖書を読み、祈りの声をあげ。


その時の俺は意味すら分からなかった。


ただ、連れてこられたから、と言った具合で、祈りも母親の見よう見まねで、子供心に「そうしなければいけない」と思った。


ただ、本当に『子供心』だ。


大人になって訪れる教会は―――こんなに小さなものだったか。


子供のときはただただ高くて白い天井が物珍しかった。


光が差し込むと、赤や青、黄色のステンドグラスが床に影を落とし、それを見るのが好きだった。


何となく―――


車から出て、その教会に足を運ぶ。


茶色い木の扉は閉まっていた。最近ではミサも行わないのだろう、人が集まっている光景をしばらく目にしていない。


扉に手を置いたところで、開けることはしなかった。


そんな都合よく、開く筈などないのだ。


だが、予想に反してその扉はギギっと年代を思わせる重い音を鳴らして外側に開いた。


思わず一歩後退すると


「あら?」と中から初老の女性が出てきた。デザインも色もシンプルなブラウスとスカート。そしてエプロンをしている。


どこにでもいそうな近所のおばさんと言う感じだ。


「すみません」何故か条件反射で謝った。おばさんは俺を上から下へ視線を一巡させ、物珍しそうに目をまばたくと


「随分背が高いのね、おいくつ?」


おいくつ?とは年齢ではない、身長のことだ。


「180とちょっと…」


「目線が高いと色々見渡せるからいいわね」おばさんは朗らかに笑った。


見渡せても―――それだけじゃ意味がないんだ。