Fahrenheit -華氏- Ⅱ



申告通り、飲み代は菅井さんが払ってくれた。


「すみません、御馳走になっちゃって」と俺が頭を下げると


「いえいえ、前回神流さんが支払ってくれたのには到底及びませんが」と菅井さんは恥ずかしそうに頭を掻く。




「そんなの―――……」




俺は短く言って菅井さんを見た。菅井さんが小首を傾げる。


「そんなの関係ないですよ。金額とか、どっちが誘ったのか、とか。


俺は今日、菅井さんと会って、少し気持ちが楽になりました。



ありがとうございます」



きっちり頭を下げるのは、ついついビジネス調になってしまったが


「いえいえ!そんなっ…頭上げてください。僕はただ友人と飲みに来ただけですので、そんな大げさな」


「友人?」俺が目を上げると


「あ!すみません、勝手に“友人”とか言っちゃって」菅井さんが慌てたように口元に手を当てる。


いや……それって……


「すみませ……


すっげぇ…





嬉し…」




俺は俯いた。俯いて口元を押さえた。そうしないと今にも涙が溢れそうだから。


このひとは―――こんな酷い男を友人と言ってくれた。


高校、大学とはそれなりにダチはいたが、会社に入ると同期連中とつるむことになって、自然昔のツレと連絡が遠のいていった。


今つるんでるって言えば(元)遊び人の裕二と、不思議入ってる系の黒桐、あとオトコ女の綾子だろ?


そう言った面々を考えても、いや……考えなくても、菅井さんは男の俺から見てもマックスとは違った路線ですっげぇいい男で。


「こんな俺を友達って言ってくれてありがとうございます」


俺が顔を上げると、菅井さんは少しぎょっとしたように目を開き


「か、神流さん!どうしたんですか!泣くこと!?」と言われ


俺は初めて自分が涙を流していたことに気付いた。