Fahrenheit -華氏- Ⅱ



不器用?経験の差?


分からないけれど、どっちでもあり、どっちでも違う気がする。


それから俺たちは言葉も少な目に殆ど黙って酒を飲んだ。


菅井さんも、そしてカクテルを提供してくれる財津と言うバーテンも、ただこの重苦しい空気をわざと軽くしようとはせず、ただ流れに身を任せて。


それが一番大変なことだと思う。


けれどこの空気がありがたかった。


ただ、沈黙の間、ゆるりと流れる時間に身を任せて思うだけ酒を飲む。


誰も何も言わない。いや、言葉は交わすけれど、当たり障りのないもので、でも苦痛じゃない。


不思議だ―――


俺は菅井さんと居ると、驚く程リラックスできる。


菅井さんが瑠華に似ているから―――か。


俺と菅井さんは“真咲”と言う女を媒体に繋がった。


過去と現在の記憶を、記録を共有する二人。真咲を共有する時間は違ったが。


交差することはない、と思っていた。相反したまま、そのまま終わると思っていた。


けれど、奇跡としか言えないぐらいきれいに交差した。


何のしこりも因果もなく。





「―――……今度、真咲が退院する前、見舞いに行ってもいいですか?」





もう何杯目かになるウィスキーのロックグラスをテーブルに置くと、まぁるくカットされた氷がグラスに品よくぶつかり心地良い音が耳に響いた。


菅井さんは最初目を開いたものの。すぐにおっとりと微笑を浮かべ



「ええ、勿論」



と答えてくれた。


過去と現在を共有するって、言うことはこういうことなのだ―――と改めて思った。