Fahrenheit -華氏- Ⅱ


バーテンがシェイカーを鳴らす音を、久しぶりに聞いた。


前は女をとっかえひっかえ、しかも全員本命じゃなかったが、バーに連れていってはギムレットを飲んだ。


でも瑠華と付き合ってから、バーは数える程しか行ってない。


俺のマンションか、瑠華のマンションか―――どちらかの部屋で、安い酒も高い酒もたくさん飲んだがどれも最高に美味しかった。


缶ビールを缶のまま飲んだが、バーで、丁寧にシェイクしてくれるカクテルを飲むよりもうんと旨かった。


そんなことを思っていると、バーテンがギムレットを流れるようにそっと置いた。


逆三角形のグラスに乳白色の液体、ライムの皮をオシャレにアレンジしてグラスの淵に乗っていた。


「あれ?新人さんですか?」と菅井さんがバーテンに話し掛ける。


「いえ、普段は別の店のオーナーなんですが、今日は人手が足りなくて急遽呼び出されたクチです」と気さくなバーテンが答える。


いかにも、おっしゃれーなバーで働いてるバーテンて感じだ。三十代に見えたが黒い髪に所々品の良い感じでゴールドのハイライトって言うのかメッシュと言うのかが入っていて、お上品なミケネコを感じさせる。


そのカクテルを飲むと、思いのほか旨かった。


「普段、どのお店で?」思わず聞くと、バーテンはイケメンな上、爽やかな笑顔を浮かべて名刺を取り出し、自分のバーの所在地をさりげなく教えてくれた。


ここからそんなに離れてない場所だ。


「財津先輩、お客様の引き抜きとか、やめてください」と後輩(?)が苦笑いを浮かべながら慌てる。


「失礼な、私は美味しいカクテルをお客様に提供したわけだよ」と財津?と言われたバーテンが爽やかに笑う。


The 大人の男って感じだな。


こんな風になりたい。


どこかしら余裕があるっていうか―――


仕事に熱を持っていて、かつ全てにおいて気を配れる、時には黙り、時には話を聞いて―――


上手に空気を読み、上手に対応する。


俺もこのバーテンみたいな男だったら、





この危機をきっと上手に乗り越えたに違いない。