Fahrenheit -華氏- Ⅱ


顔から火が出そうな勢いで、その熱を冷ましたくて俺は黒ビールを一気に煽った。


好みの問題だろうが、普通のビールに比べて少し甘い後味が口の中に残る。


甘いのは―――……ビールの味なのだろうか、それとも数時間前リムジンで無邪気にじゃれあっていた後味なのだろうか。


TRRRR…!


突如、俺の携帯に電話が掛かってきて、それを持っていた菅井さんが少し驚いたように


「あ、神流さん、お電話です。…柏木さん…?から?」と戸惑っていたのは


表示に


着信:♥瑠華♥


となっていたからだろう。


鳴り続けるコール音を耳の奥で流しながら、けれど俺は出ることはしなかった。


菅井さんが、「お電話ですよ」と言って携帯を寄越してきても。


やがて着信音が消え、画面が『不在着信:♥瑠華♥』と表示されても、俺は額を手にあてたまま、空になったグラスを傾けた。


「喧嘩でもされたんですか…?」菅井さんがおずおずと聞いてくる。


「いや……そんなんじゃないんです…」


何とか答えながら俺は携帯に指を滑らした。


メールを作成し『今、仕事中だからごめん』と送り、何のためらいもなく送信ボタンを押してしまった。





初めてだ―――


瑠華にこんな嘘をつくのは。




嘘をつく俺は自分に嫌悪を抱いて、それを誤魔化す為にお代わりのビールを注文した。


カウンターテーブルに置かれたビールのグラスが置かれると、俺は心のもやもやを流すように半分程一気に流し入れた。




けれど―――俺の心の中のもやもやは流されなかった。