船橋の会場から俺のマンションに向かうか、それとも仕事と偽って抜けてきたわけだから一応、広尾に向かおうか、悩んだ。
とりあえず「東京方面へ」とだけドライバーに告げ、タクシーは発車した。
江戸橋JCT 出口から 上野線/首都高速1号/ルート 1 に入る時になって
「あの、お客さん…東京に入りますがどちらへ?」と聞かれて
考えている最中
携帯が着信を鳴らした。
一瞬、瑠華かと思って何故か身構えたが
着信:菅井さん
となっていて、ちょっと驚いたのと同時に何故か安堵もした。
「はい、神流です」と出ると
『菅井です。今日は御報告がありまして』と菅井さんが切り出す。その声はどこか弾んでいた。
『満羽が来週、退院することに決まりまして。お腹の子は安定したようです』と言葉を聞いて、思った以上に安堵して「ほぉっ」と息をついた。
と言うのも、先日、真咲に怒鳴ったから、胎児に影響したらどうしようかと思ってたから。
母は強し、ってこういうことを言うのだろうか。
『満羽の見舞い……と言っても面会時間が過ぎて追い出されたクチなんですが、神流さん一杯どうですか?』
菅井さんが軽く誘ってくれて
「お気持ちはありがたいのですが……」
と、言いかけた言葉の、次が出てこない。
自宅に戻るか、会社に行くか、選択は二つだと思っていた。けれどどっちに行ったって、さっきの瑠華とマックスの二人の光景を忘れることはできない。
額に手をやり俯いたまま、何も言えずにいると
『とりあえず、飲みましょう』
何かを察知したのか
菅井さんはそう提案した。



