“男の子”は虚を突かれたように目を開いている。
あたしは少し乱暴な仕草で彼から足を抜き取り、自らパンプスを履いた。
「生憎ですが、シンデレラの王子様にはなれなかったようですね」
皮肉を込めて言うと
「充分、ロマンチックなのを演出した筈なのにな~」と彼はあっさり過ぎるほど白状した。「でも何で気付いたの?」と逆に興味深そうに聞かれ、あたしは目を細めた。
「この靴もドレスもジミー・チュウのものではありません、なのにジミー・チュウと勘違いしたのは二村さんか、緑川さん。
でも緑川さんが“こんな回りくどい”ことをしてこない性分なのを知っていますので」
「なるほど…」彼は顎に手を当て「ふんふん」と頷いた。
「あなたがたがどう言ったご関係なのか分かりませんが、二村さんに言っておいてください。
私のこと探っても何も出てこない、と。
こんなスパイみたいなことまでして、どこまで姑息なのですか、って」
彼はくりっと大きく丸い目を開いて、ぱちぱち。
なかなか愛嬌のある顔立ちはいかにも年上ウケしそうだ。
しかし、その愛嬌のある表情からすぐに表情を変え、わざとひょうきんな顔を作っては
「ひゅ~」と口笛を吹いた。
「おねーさん、可愛い顔して結構怖いね」
「怖い?そう思われて結構です。こそこそ嗅ぎまわる野良犬とは違うので」
ハッキリと、しかし皮肉をたっぷり込めて言うと
「なる程、空汰が例えた“メスライオン”って言葉がぴったりだ」と彼は苦笑を浮かべながら腕を頭の後ろで組む。
空汰―――……と言い合う関係なのだ、彼は、やはり。
友達?後輩―――…?
色々な憶測が飛び交ったけれど、彼らの関係性を知った所であたしに何のメリットもデメリットもない。
「メスライオン、あら光栄だわ」あたしは皮肉った。
「おねーさん、面白いね♪」
彼はあたしの…威嚇と言うのかしらこれは、にも怯むことなく。
「これ、俺のナンバー、何かあったら連絡して」とメモ用紙を素早く手渡してきた。
そこには11桁のナンバーが書かれていた。
「何もあることはありませんので、お返しします」とあたしが押し戻そうとすると
「あなたは絶対俺を頼るときが……いいや、会いたいと思う時が来ると思うよ?」
彼は意味深にニヤリと笑い、両手の人差し指であたしを指さし、後ろ向きに歩く。
その変な余裕がマックスとは違う種類―――二村さんのそれと重なった。
「じゃね♪きれーなおねーさん♪
12時の魔法が解けたとき、会おうね」
と投げキッスをしてきたとき、随分キザな台詞だと思ったけれど、何故だか全然嫌味に思えない不思議なオーラがあった。
魔法が解けたとき―――……
いいえ、魔法は解けない。そもそも魔法なんてない。
ぐしゃり
あたしは手の中でそのメモ用紙を握りつぶしたけれど、何故だかそのままゴミ箱に捨てる気になれず、結局そのメモをバッグに仕舞い入れた。
「一つだけあなたに忠告を」
一言言うと、彼は顔を上げた。
「服のセンスが悪い」とそっけなく言うと
「ふはは!」と彼はまたも笑った。無邪気な―――笑顔だった。
「やっぱ、おもしれー」
「『面白い』、も女性に対して褒め言葉ではありませんが」
冷たく言うも、彼は全然めげた様子もなく
「今回は、これでバイバイ。またね~」
彼はひらひらと手を振り立ち去って行く。
魔法が解ける―――……
その瞬間、あたしはこのナンバーに…“魔法使い”の手を借りたくなる、直感的にそう思ったのだ。
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