Fahrenheit -華氏- Ⅱ


それは、この高級なホテルにとって一種、異種的な存在。


分不相応、と言うのかしら。TPOを考えた方が良いんじゃない?と思わず思ってしまった。


階段は残り三段。その“男の子”とすれ違いそうになったときだった。


注意散漫だったのか、あたしは床まで垂れた長いドレスの先をヒールで踏んでしまったようだ。


ヴァレンタイン家の様々なパーティーに出席したときは、そんな失敗一度も無かったのに。


あっ―――


と思う暇もなくあたしの体は傾いた。


転ぶ、堕ちる―――


と、思った瞬間、その名も知らない若い男の子があたしの腕を取り


「危ない」と言って、思わず彼の胸に飛び込む形になったあたし。


転ぶところを抱き止めてくれたのは、助かったけれど―――


その彼はあたしの体を軽々持ち上げ…所謂お姫様抱っこと言う形で抱きかかえられ、びっくりし過ぎて声も挙げられなかったあたしを抱えたまま、彼は器用に階段を降り


地面に無事到着すると、あたしをそっと降ろしてくれた。


「あ……ありがとうございます…」


素直にお礼を述べると


「いえいえ♪きれ~なおねーさんと思わぬお近づき?」と軽い調子でウィンク。


近づいてみると、大学生っぽいと思っていたけれど……いいえ、やはり成年しているのかどうか微妙なところだ。


背格好は啓やマックスとは違って、低い方―――目測できっと170少しと言う所だけど、あたしを抱きかかえる力は結構な力強さだった。


彼は階段の上の方を見ると


「あ、靴。脱げちゃったみたいだね」と、あたしが落ちそうになった場所に置き去りにされた片方だけの靴を律儀に取りに行ってくれた。


「はい」彼は人懐っこい笑顔で靴を床に置いて


「あ、ありがとうございます」あたしはぎこちなく頷き靴に足を入れようとした。


そこで


「待って」と彼が言い、


「また、ジミー・チュウのドレスを巻き込むといけないから」と言いながら屈みこみ、ご丁寧にあたしの足首をそっと掴みパンプスの中に入れてくれようとしていた。


あたしは目を細めた。





「あなた―――二村さんの知り合い?あたしたちを尾けてきたの?」





あたしが目を細めると、彼は目を開いた。