Fahrenheit -華氏- Ⅱ


それから間もなくバカラのグラスに、注文したスコッチがカウンターに置かれた。


マックスはそれを美味しそうに一口。


「Gaze is hurting from earlier. The way they look at you, their beautiful you, stings.(さっきから視線が痛いな。美しい君を見る男の視線が、ね)」


歯の浮くような台詞はその昔、ロマンティックでそう言われる度に心が躍った。でも今は寒々とした風があたしの胸を吹き抜ける。


「はっ」と吐き捨てるように言いあたしはスコッチを一気に煽った。


「お代わりを」と注文するとバーテンは流石にここに来て驚いた様子で、しかし一応客だからか言われた通り、用意してくれた。


二杯目のスコッチが運ばれると、マックスはあたしの手に自分の手を重ねてきた。


「You got a new boyfriend?(新しい、彼氏できたの?)」と突如として聞かれて、あたしは目をまばたいた。


「Did you think I didn't notice that the ring was stuck in your glove when I danced with you earlier?(さっきダンスを踊ったとき、グローブ越しにリングがはまってたこと、気付かなかったとでも思った?)」マックスが小首を傾げながらうっすら笑う。


余裕すら感じられるその表情に苛々する。


「Hey, Do you remember what I said the other day? We could start over.(なぁ、この前言ったこと覚えてる?やり直さないか、って)」


「Huh?In all likelihood, there is no chance of that.(は?万が一もないわ)


Besides, you deduced that I have a boyfriend.(それにあなたが推理したのよ、あたしに彼氏がいるって)」そっけなく言うと




「I'm going to take you away from your "boyfriend".
(その“彼氏”から君を奪ってみせる)」




マックスはあたしの手を取りグローブ越しの手の甲にキスを落とす。


「No,no stop it.(やめてよね)」あたしは強引にその手を振り払った。


「Would you reconsider?(考え直してくれないか)」とそれでもめげずにマックスがあたしの手をきゅっと握ってくる。


それはあたしがマックスに恋をしていたときと同じ温度だった。