Fahrenheit -華氏- Ⅱ


目的のバーラウンジに向かうと、案内係のウェイターも少し驚いた様子だが、すぐに丁寧にカウンター席を案内しくれた。ドレスコードだから問題ないだろう。


それにしても…まぁどうやっても目立つわよね、あたしたち。


あたしはドレス姿だし、マックスは外国人だし。何より背が高くてがっちり体型の黒人ティムに驚いてるようだ。


あたしたちがどんな関係なのか色々想像したに違いない。


各々アルコールを入れて楽しんでいた客たちがこちらをちらちらと気にしている。


ティムはバーラウンジの入口で待つ、と言う。


「Let's have a drink together.(一緒に呑みましょうよ)」とティムを誘ったら「No thank's.(いや、やめておく)」と断られた。


純粋に久しぶりにティムと話したかったのはあるけれど、彼は職務中何があろうとお酒を口にしない。


(昔はたまに職務を(こっそり)解いて飲んだこともあるけれど)


流石に、幾らアメリカに比べてかなり治安が良いとは言え、この地を知らないティムは徹底したボディーガードに。


プロ意識としては尊敬するけれど、今はマックスと二人っきりになりたくない。


「すっごいイケメン!ハリウッドスター?」


と方々から女性の声が聞こえてきては、マックスに視線が集中する。


あたしは内心『“これ”が?』と思った。





啓の方が断然、ステキ―――





そう思うと、先に帰ってしまった啓のことが気になる。


まるで置き去りにされた子供のような不安な気持ちになる。


それでも、その気持ちを押し隠し……幸か不幸か、今隣に座っている元夫―――このひとが全てを奪っていって、あたしは笑うことを捨てた。最近ではすっかり無表情が定着している。不安な気持ちを押し隠せる。


カウンターに落ち着くなりマックスは


「Scotch,Two without ice.(スコッチを、ノーアイスで、二つ)」とバーテンダーに注文。


あたしは顔をしかめた。


「You always did that when you were angry, didn't you?(君が怒っているとき、いつもそうだったろ)」と眉を寄せて聞かれ、あたしは小さく吐息。


そんなことまで覚えていたなんて―――


と言うかちょっと意外だ、あたしの癖?と言うのかそんな小さなことも気付かれていたなんて。


バーテンダーに「スコッチ、ノーアイス、ダブルで、二つ」と改めて注文するとバーテンダーは口数も少なく「かしこまりました」と恭しく頭を下げる。