Fahrenheit -華氏- Ⅱ


それからあたしたちは目的地に向かうまで無言だった。


あたしは今更マックスと話すことなんてないし、マックスはこの状況だと言うのに、どこまでも余裕顔だ。憎たらしい程長い脚を組み、背もたれに腕を預けている。


それが一々鼻につく。


ティムも当然話を振るわけでもない。そもそもボディーガードとはそう言うものだ。


リムジンが目的地に着くと、


「Go,I'm leaving.(行って、あたしは帰る)」とホテルの方を顎でしゃくると


「Hey Ruka, will you join me for one more drink?(瑠華、もう一杯付き合ってくれないか?)」とマックスが組んでいた脚を直し、膝に腕を置き組みながらここに来て真剣な目で訴えてくる。


「Why do I have to drink with you?(何故、あたしがあなたと飲まなきゃならないの)」


「Don't say that. I just want you to stay with me a little longer.(そんなこと言わないでもう少しだけ―――、一緒に居て欲しい)


I'm not asking you to go out with me for a day.(一日付き合え、とは言わない)Why don't we just have a drink like old times?(ただ、昔みたいに酒を交わさないか)」


とマックスが切り出した。


この人と話すことなんてもう何もないと気持ちで一杯だったが、ユーリのことが気になったのもある。


「Just one drink.(一杯だけなら)」と結局あたしが折れた。


帝国ホテルの最上階にあるバーラウンジにあたしたちは向かった。ホテルのドアマンもあたしたちを見て少し驚いた様子(まぁ一方は背の高い外国人、特に彼はティムを見て驚いたようだ。そして一方はドレス姿の女だからか、不思議がられても仕方ないわね)だったが、すぐにその表情を仕舞って


「いらっしゃいませ」と丁寧に向かいいれてくれた。


最上階に向かうエレベーターでもあたしたちは無言だった。


建物自体は老舗だけれど、所々改装してあるのかエレベーターが昇っていくのはとても静かで震動すらしない。


その音のない空間、互いの息遣いだけが行き交い、しかし言葉を交わすことない。