「ほら、柏木さんは行って。大丈夫だから、後は私たちに任せて」と綾子さんも急かす。麻野さんは時計を気にしているようだった。
彼らは―――啓から何か聞いているのだろうか。
ここからあたしを……いいえ、あたし“たち”を帰したいようだ。
ティムがドアを開けながら、マックスがリムジンに乗り込んだとほぼ同時だった。
二村さんと緑川さんがタクシーで到着した。
緑川さんは黒いふわふわのチュチュが可愛いワンピース……それは緑川さんにとても似合っていた。
「あ、柏木補佐!どこへ行くんですか?それに……あれってリムジン?すっごーい!葉月初めて見た!」
と緑川さんは不思議そうにしたりはしゃいだりで忙しそうだ。
「ちょっと所要がありまして私はお先に失礼いたします」
「え……え?」緑川さんは困惑した様子だ。
代わりに二村さんはどこまでも余裕があるのか
「柏木さん、それ…ホンモノ…?」と目をパチパチさせながらもあたしの胸元を指さし
「ホンモノです」あたしはキッパリあっさりそっけなく答え、「二村さん、先日も言いましたが、
私が身に纏うものに偽ものなんてありません。全て本物です」
て言うか偽物って何よ、と心の中で突っ込みながらも、運転手さんとティムがリムジンのドアを開けながら待っている車に乗りこもうとした。
「え~!帰っちゃうの?」と二村さんは無邪気に聞いてくる。
幸いにもマックスはリムジンの一番奥に座っていて、二村さんには気付かれていない様子。
「Louie.(ルーイ)」とティムが呼んでいて、
「 I'm coming!(今行くわ)」と軽く手をあげると、ここに来て二人がティムを見てぎょっと目を剥いた。
あたしが今ヴァレンタインと繋がっていると気付かれてはならない。啓もその辺のことを考えて咄嗟にそう行動したのだろう。
彼の厚意に素直に甘えることにして、あたしはドレスの裾をたくし上げリムジンに乗り込もうとした。
「ステキ!ドレスも、リムジンも!」と緑川さんは胸の前で手を組み合わせてうっとりとあたしを見る。
「リムジンもそうですがドレスもセレブそのものですね。参考程度に聞きますが、どこのドレスですか?」と二村さんはにこにこ。
「ジミー・チュウですが」あたしはそっけなく答え「何の参考になると言うのでしょうか」と目を上げた。
「いえ、俺がもっと金持になったら葉月に買ってあげようかと」
と二村さんは緑川さんを振り返る。見られた緑川さんは少しバツが悪そうに俯いている。
「そうですか、頑張ってください。すみませんが私はこれで」と言うと、緑川さんと二村さんは不思議そうにしていたものの、あたしはリムジンに乗り込み、次いでティムも乗り込み、運転手さんに
「すみません、発車させてください」とせっかちに言い、運転手さんは言葉も少な目に発車させた。
車が発車する間際に見た、二村さんの意味深な……口元に笑みを浮かべた少し気味が悪い笑顔が気になる。



