Fahrenheit -華氏- Ⅱ


『ちょっと!!!どうゆうこと!!』


綾子は開口一番に言って、しかし声を潜めていた。


「何?」俺がそっけなく聞くと


『来てるのよ、オーランドが!』


「オーランド……」俺が口の中で復唱したのが隣の瑠華にも聞こえたみたいで、瑠華はその意味に気付いたのか、はっとなったように目を開いた。





「――――マックス……」




出来ればその名前を瑠華本人の口から聞きたくなかった。


「何で…何であのひとが…」


瑠華は額に手を置きしばらく考え込み、やがて思い当るふしがあったのか慌てて、ゴールドのチェーンが上品なイブ・サン・ローランの白い小ぶりのバッグから携帯を取り出しどこかに電話を掛ける。


しかし電話の相手はすぐに留守電に行ってしまったようで


「Darn it! (もぅ!)」と瑠華は舌打ち。


俺を仰ぎ見、「ハロウィンパーティーを知っているのは参加者以外で心音しか知りません」


「心音ちゃんが…?」


俺は目をまばたいた。


今更ながら「ひ…引き返す?」と提案するも


「いいえ、行くと言った以上行かないと失礼ですし、今更中止にはできないです。何せこの一日で二村さんたち三人が揃うわけですから」と瑠華は顎に手を当て前を見据えて……と言うか睨んで?る。


「とりあえず綾子さんに対応をお願いできますか?」と聞かれ


「うん……まぁあいつなら英語できるし」


俺が綾子に応えるより早く「すみません、急いでくれますか」と身を乗り出し運転席側のカーテンを捲り、瑠華が運転手を急かす。


「心音……どう言うつもり…」


瑠華はただただ視線をまっすぐにして睨むような……いやいっそ射貫くような視線で前を向いていた。