Fahrenheit -華氏- Ⅱ


瑠華は器用にロンググローブを取り外し、無事左手薬指に俺とお揃いのリングが嵌っていることに安心して、今度こそと言う具合にテリーヌに手を伸ばした、ところで俺の左手にふと目を向けて


同じ位置にある俺のリングを見て目をまばたく。


俺は指輪のはまった左手で瑠華のフォークを持つ手首をきゅっと握った。


瑠華はまたもフォークを皿に戻し、左手で俺の手にそっと手を重ねる。


「これじゃ、いつまで経っても御馳走を食べられませんね」


「桐島のツレんところには比べ物にならないけどね」俺が苦笑すると


「いいえ、啓が作ってくれたものでしたら、例えお茶づけでも美味しいです」と瑠華はにっこり。


そんな可愛いこと言ってくれたら作り甲斐があるってものだ。


俺も笑い返し、瑠華の頭をそっと撫でた。


瑠華はくすぐったそうに身をよじりながら、それでもテリーヌがよっぽど気になるのか今度はフォークで掬ったそれを口に含んだ。色気より食い気?


「んー!美味しい」


瑠華は口元を手で押さえながら、本当に嬉しそうだ。


俺はその笑顔を見るのが、好き。


その後、俺たちはシャンパンを飲み、つまみを食いながらバカみたいにはしゃいで、笑い合った。


まるで子供の……俺たちが最初に出逢ったときのように。


19年前のタイムスリップしたように。


数か月前…瑠華が神流グループ本社に入社したばかりのときと比べ物にならないぐらい、無邪気に。


けれど楽しい時間はそれ程長くは続かなかった。


目的地まで10分と言う所で


TRRRRR!


俺の携帯が鳴って


着信:綾子


となっていて俺は思わず目を細めた。


「鳴ってますよ」との瑠華の言葉に「ああ、うん…」曖昧に返し


結局電話にでることにした。