Fahrenheit -華氏- Ⅱ


チェックインを済ませ、搭乗時間が迫ると、ゲートの手前で瑠華と心音ちゃんは軽く抱き合った。


「心音、楽しかった。またね」


心音ちゃんを抱きしめる瑠華の目尻にはほんの少し涙が浮かんでいた。


「Stop crying, you're ruining pretty face.(泣かないで、可愛い顔が台無しよ)何も宇宙に行くわけじゃないわ。飛行機を飛ばして13時間よ」心音ちゃんは微苦笑を浮かべ、瑠華の両頬を手で包む。心音ちゃんのその表情も悲しそうだった。


“たった”13時間


13時間“も”


二人の中で無言の言葉が行き交っているのが分かった。


「ユカリに宜しくって言っておいてくれる?」


「ええ、勿論」瑠華は目尻に溜まった涙を指で拭い、無理やり笑った。


最後にもう一度抱き合うと、名残惜しそうに瑠華は心音ちゃんから離れた。


けれど心音ちゃんは瑠華の手をきゅっと握って





「Ruka, don't lose.(瑠華、負けないで)




No matter what happens.(例えどんなことがあろうと)」




心音ちゃんは真面目な顔で言い、瑠華は小さく頷いた。


「I'm on your side, no matter what.(あたしはあんたの味方よ、何があろうと)Trust me.(信じて)」手を握りながら心音ちゃんは至極真剣に言い、


「I believe in you.(信じてる)」


繋いだ指先が離れ、折れそうな程細いピンヒールを鳴らし、搭乗ゲートに向かって行く心音ちゃんは歩き姿も姿勢よく、妙に堂々としていた。そして再度振り返り



「ケイト、


必ず―――



あたしを勝たせて」



俺はしっかりと頷いた。


心音ちゃんは満足そうにちょっと笑い、再び俺に背を向け軽く手をあげた。


「今回ばかりはクジラはいやよ」


と皮肉げに言って、心音ちゃんはとうとうゲートの向こう側へ消えて行った。