でも、怒り出したいのは俺の方だ。
「しょうがないんだよ!俺にはこの方法しかない!
大体、君たちがあんな危険な裏取引をしようとしたから!」
「だから何。仕掛けたのはあたしたちだから、それに従うしかないって?
もっと考えなさいよ!
瑠華がどんな気持ちだったかって」
「そんなに…」
俺は握った拳を震わせた。打たれた頬が痛い。
「そんなに、ヴァレンタインを潰したいんか!
分かりたくないね!君たちの考えは!もっと正当な方法があった筈だ!」
俺は吐き捨てるように怒鳴った。
「正当な方法?相手はウォール街の帝王よ?正当な方法は通じない。真向勝負に挑んだところで潰されるのがオチだわ。
Fahrenheitのように」
心音ちゃんは人差し指を俺の額に突き付け、腰に手を置いた。
Fahrenheitのように……
「きれいごとしか知らない二世のおぼっちゃんには分からないことかもしれないけどね」
と心音ちゃんは皮肉たっぷりに言う。
普段なら『二世のおぼっちゃん』と言われたことに腹を立てるが、もうそう言うちっぽけなレベルではない。
心音ちゃんは腕を組み、
「もう一度聞くわ。あなたはその条件を飲むって言うこと?」
と聞かれ、俺は頷こうとしたが、感情の方が暴走する。
「じゃぁ他にどんな案があるって言うんだ!」
心音ちゃんがぐしゃりと前髪をかきあげる。
「やっぱり、あたしの負けだわ。スリーカードだもの」
「スリーカード…?」意味が分からず目をまばたくと
心音ちゃんは決意したように顔を上げ、
「あたしはギャンブラーだけど、いつも負けっぱなし。
でも今度はあんたたちの絆に掛けるわ。
あたしを、勝たせて」
心音ちゃんは俺の襟を掴んで顔を寄せてきた。いつも明るくて笑顔が絶えない心音ちゃんしか知らないから、こんな風に真剣に……と言うかむしろ怖いぐらいの気迫を感じて俺は一歩後ずさった。
「あたしを勝たせて」
心音ちゃんはもう一度言った。俺は心音ちゃんに掴まれた襟元、心音ちゃんの手にそっと手を重ねて
「だったら一つだけ、願いを聞いてくれるか」
俺も心音ちゃんと同じだけ気迫を浮かべて言い返した。



