Fahrenheit -華氏- Ⅱ




「嘘だと言えよ!軽いお遊びだったって!」


俺は思わず心音ちゃんの華奢な両肩を掴んでいた。そのふしに買い物カゴが俺の手からすり抜け、床にドサリと音を立て中身が散らばる。


「お遊び?だとしたら相当悪質ね」心音ちゃんは無表情に言った。


それは瑠華が日本に来たときと変わらぬ表情。





何も―――読み取れない。




「ケイトの推理は当たってるわ。でもどうしてそう思ったわけ?」


心音ちゃんは俺の手を、小さな虫が肩に乗ったと言う感じで軽く払った。


力のなくなった俺はだらりと腕を下ろし



「二村が……取引を持ちだしてきた……」




俺は二村が持ちかけてきた“取引”の内容を聞かせた。最後まで言い切らず


心音ちゃんは目を吊り上げて、


「その条件を飲むって言うの?」と低く聞いてきた。




「それしか方法がないんだよ!瑠華を守るには!」




我知らず、叫んでいた。


土産物屋に居た買い物客が何事かこちらを注目する。


その注目を浴びている中、


パチンっ!


小さく音が鳴ったと思ったら、俺の頬に熱いものが走った。


心音ちゃんが俺の頬を平手打ちしたのだ。





「何があっても瑠華を守るって言ったのは嘘?


あんたの方が大ウソつきだわ」




白けた目で心音ちゃんがさも「幻滅した」と言いたげに顔を逸らす。


目も合わせたくない、と言った具合だ。


心音ちゃんは―――怒っている。