Fahrenheit -華氏- Ⅱ



別に、同じ部署の同僚だから話していても何も問題ないし、特別視することはない。けれど話の内容は明らかにプライベートなもので、充分に気を付けていた。


けれど変に気が張っていたのか、俺は



後ろに突っ立って、にっこり似非クサイ笑顔を浮かべた


二村



を見て、ごくりと生唾を飲み込んだ。


二村は相変わらず人懐っこく、瑠華に手を振っている。


「柏木さ~ん、佐々木さんが呼んでたよ」


「そうですか、ありがとうございます」


瑠華は小さく一礼し、俺と二村の間を通り抜けようとした。そのふしに二村は瑠華の華奢な手を掴んだ。


「柏木さん、高そうな指輪してますね~、“彼氏”に買ってもらったんですか」と瑠華の右手薬指をしげしげと眺めている。瑠華は気味の悪い何かを見るような目つきで


「いいえ、自分で買いました。あの……離し…」


瑠華の言っていることは本当のことだ。


でも―――




「その手を離せ」




俺は二村の手首を強く掴んだ。


「ど…どうしたんですか~?そんなこっわい顔して」と二村はへらへらと笑う。




「煩い。手首を折られたくなければ柏木さんからその手を離せ」





俺の威嚇に二村はあっさりと瑠華から手を離した。


「ちょっとしたジョーク?って言うのか、スキンシップですよ、やだな~本気になっちゃって」


「セクハラだ」俺がつっけんどんに言うと


「じゃぁ部長の『手首折る』発言はパワハラですよね♪」


二村の返しに一々苛々くるが、ここでまともにやり合う気はない。


「すみません、俺も飲み物取りに来たんです」二村はそう言い冷蔵庫に向かって行くと、瑠華と同じ種類のスムージーを取り出した。


「外資物流で流行ってるんですよね、これ。気になったんで俺も買ってみました」


二村はまたも意味深に笑い、俺は瑠華の肩を軽く押し


「行こう」と促した。


二村の行動や発言は―――明らかに俺に対しての挑発だ。