「リング――……」
思わず呟くと、俺の視線を辿ったのか瑠華が
「ああ」と小さく言い「チェーンが切れてしまったので、無くさないように」
と相変わらずそっけない物言い。
でも『無くさないように』と言ったときの言葉はほんのちょっと柔らかかった。
普段なら、その場所にリングがあるのが嬉しい筈なのに、完全に喜べない俺は―――どうかしている。
「今度新しいチェーンを買います。話はそれだけですか?
では私は戻ります」
と瑠華は髪を翻し、俺の横を素通りしていこうとしていく。その手首を思わず掴んだ。
「何ですか?」と瑠華が再び目を上げる。
「き、昨日さ、電話くれたじゃん?何かあった?」
「いいえ、何も。ただ……」瑠華はそこまで言って俯いた。
『ただ』の続きが気になって俺がきゅっと瑠華の手首に力を入れると
「ただ、声が聞きたかったのです。
深い意味はありません」
瑠華は顔ごと上を向き俺を見つめてくる。
声を―――
俺と瑠華の仲には確実に変化があって、その変化のスピードは俺の方が圧倒的に早いと思っていたが、瑠華もゆっくりだがスピードをあげていて……
俺は何故か泣きそうになった。
『声を聞きたくて』嬉しい筈なのに、手放しで喜べない俺は
やっぱり、どうかしている。
俺は瑠華の手首を握る力を弱め
「瑠華はさ、昨日何やってたの?」
こんな…探るようなことしたくないのに
「昨日?心音と紫利さんと女子会をしました」
心音ちゃん……は、分かるけど紫利さん!?
これには素で驚いた。
「な、何で!何なのその組み合わせ」
「心音がどうしても紫利さんに会いたいと駄々をこねて」
あ、そっか。数日前にあの料理屋の大将の店で揉めた際に二人はすでに顔見知りだったわけで。
「女子会って何してたの?」
「特別なことは何もしてません。うな重を食べてポーカーをしてお酒を飲んでお喋りして」
うな重にポーカーは特別だと思うけど??俺の心の突っ込みはさておき
「こ、心音ちゃんも一緒に?」
俺の質問に瑠華は怪訝そうに眉をひそめた。
「勿論そうですが。心音が紫利さんと会いたいと言い出したので」
てことは、裕二のPCにウィルスを送りこんだのは心音ちゃんじゃない―――?
「あの……」瑠華が切り出し、その顔は不機嫌そうにちょっと歪んでいた。
「私の行動を疑っているのですか?浮気している、とでも?」
「い、いや!そんなことはない、断じて無い!」
俺は慌てて手を振った。
瑠華は俺の額に指さし
「生憎ですが、私は“誰かさん”と違って器用ではないので、その心配は無用です。
ね、
二村さん」
瑠華が意味深に微笑み、俺は目を開いた。



