Fahrenheit -華氏- Ⅱ


今日はあまり外回りを詰め込むのはやめよう、集中力が持続しない。と言う分けで俺は一旦会社に戻った。


そのまま外で昼飯を食ってもいいけど、少し書類をまとめたかったてのもある。


8階の廊下…給湯室の前を通るとき、シンクの前、瑠華が華奢な背中を向け冷蔵庫の中を開けていた。


見なかったフリで素通りしても良かったが、そうしなかったのは


やっぱり瑠華とちゃんと向き合いたかったからだろうか。


「る……柏木さん」


俺が声を掛けると長い髪を揺らして、冷蔵庫から何かを取り出していた瑠華はその取り出したものを手に振り返った。


手にしていたのは、一昨日佐々木が美味しいと言っていたスムージーのカップだった。


「それ、気にいったの…?」


呼び止めたはいいけれど何と切り出していいか分からず、俺はとりあえず目に留まったことを言った。


「ええ、結構おいしくて、それよりお帰りなさい。今日は一日外回りかと」


「あー、ちょっとね、書類作成と休憩も兼ねて」と言いながら俺は周りをきょろきょろ。廊下には誰も居ない。それでも充分に声を低めて


「あの……昨日電話、ごめん……裕二んちで飲んでて気づかなくてさ、そのまま朝になって電源落ちてた。急いで裕二の充電器借りたわけだけど…」


これは殆ど嘘だ。


「そうですか」


瑠華はいつもの変わらぬ表情でさらりとそれだけ言い、スムージーにストローを差す。


それだけ…?


「……疑ってないの?」俺が目を上げると


「はぁ?」と今度は瑠華が訝しげに目を上げた。


「いや……明らかに怪しいっしょ、言い訳がましいって言うか…」自分で言ってどーする。


「私はあなたを信じると言いました。だからその考えを覆しません」とあっさり言われ、拍子抜けした。


「それとも疑わしい行動をなさっていたのですか」と逆に聞かれ、俺はぶんぶん横に手を振った。


「なら、何も問題ないじゃないですか」そう言って瑠華はスムージーのストローに口を付ける。


スムージーのカップを持っていた右手にふと目がいって、その薬指に俺とお揃いのアトラスのリングがはまっていて、俺は目をまばたいた。