Fahrenheit -華氏- Ⅱ



バンッ!


俺は乱暴な手つきでハンドルを叩いた。


その音が真咲に伝わったのか


『あの件は…』と真咲が声を低めた。『“お前ら”てどう言う意味?あたしの他にもそう言ってくる女がいるの?』


女じゃねぇけど、


これ以上は聞きたくなかった。


「今はその話を聞きたくない。勘弁してくれ」


俺は弱々しく言った。ハンドルに手をやり項垂れる。


真咲は電話の向こう側で少し黙ったのち、やがて静かに切り出した。


『あたし…あんたと別れてからしばらくどこでどう間違えたのか考えてた。どうしてこんな風にすれ違ってしまったのか考えた、


でも、間違いじゃないだってこと、最近気づいたの。


菅井と出逢ってから、あたし―――彼の優しさに包まれ、だから間違えてなかったって思えた。


間違いなんて―――無かった。


あたし、啓人と間に間違いなんて無かったと思う』


真咲はきっぱりとこう答えた、


俺は―――真咲の今の言葉で少しだけ、救われた気がした。


不思議だな、別れて数年経ってるのに、真咲が現れるまでその存在すら薄れていて、現れたら現れたで憎くて仕方なかったのに。


今、俺ははじめて本来の真咲の優しさを思い出した。


「俺も―――間違えてなかったって……思いたい」


『じゃぁそう思えばいいんじゃない?あたしの知ってるあんたはまっすぐで、迷いが無かった』


「あのときと状況が違うし、社会人としての責任がある」


『社会人として―――ね……』真咲は意味深に言葉を低め、それでも小さく息を吸い込み


『とりあえず、菅井が持ってきてくれたオークションの件、ありがとう。伝えたかったのはそれだけ。“でも”の続きは、分不相応じゃないか、って聞きたかっただけ』


俺は前髪をくしゃりと握り


「分相応だよ、柏木さんが見つけてくれたんだから、彼女なら絶対セリ落とす」


『随分な信頼ね。まぁ、こっちとしては二人の関係はどうでもいいし、結果が残せればそれだけで充分だから』


「あっそ、わざわざどーも」俺は皮肉げに言って「じゃぁな」と言って電話を切ろうとしたが、思い直って





「体、大事にしろよ」




と言いたかったが、すでに通話は切れていた。