Fahrenheit -華氏- Ⅱ


午前中に2件営業回りをして、11時近くになった。あと一件行けるかな…と書類と地図のルート計算をしていると


TRRRR!


流石に仕事中まで電源を切れないからな、今朝電源を入れたが


ディスプレイに表示された文字を見て、


俺はまたも額に手を置いた。


着信:真咲


こっちは流石に無視と言うことはできず


俺は結局その電話に出た。と言うか取らざるを得ない。


プライベート用の携帯だから


「はい」とそっけなく電話に出ると


『あ、あたし』と俺が知るいつもちょっと勝気な物言いの真咲が名乗った。


今度は何だよ、二村と言いお前と言い……と言いたかったが、何とか堪えた。


『……菅井と会ったんだって?』


と真咲に聞かれ、虚を突かれた。


「……うん、まぁ流れで…」


『彼、楽しそうだったわ。何の話をしたか教えてくれなかったけど、あんたって意外と面白い人だって言ってた』


「そ?それなら良かった」


当たり障りのない返答を返し


『菅井が持ってきたオークションの件……』と切り出されたとき、何故か胸が強く打った。


瑠華が見つけてきたアメリカのこれまた有名な大型家具店のオークション。


瑠華が桂林のリゾート開発の裏オークションの隠れ蓑として利用した、と思いたくない。


あれだけは誠心誠意向き合って、瑠華の完全なる善意だと思いたい。


「何?不審な点があった?」動揺を隠したいのに、だからか焦って墓穴を掘ってしまった。


『不審…?何も…。だけど…』


言いかけて


「『だけど』何?“例の件”とは別の話だって言いたいんか」


違う…


こんなことが言いたかったわけじゃない。


「俺がお前に恩を打っておけばお前が“取引”を取り下げると思ってたのか」


違う…


真咲は電話の向こうで何も言わなかった。





「お前が言い出したんだろ!瑠華との仲を清算しろって!!


えっ!


ああ、俺は行き詰ってるよ!お前“ら”のせいでな」





違う!




それにこれは俺の完全なる八つ当たりだ。


真咲は―――今、妊娠していて不安定な時期にある。


俺が怒鳴ったことで流産でもしちまったら俺は“二度目”の過ちを犯すことになる。





けれど、



止まらない。