Fahrenheit -華氏- Ⅱ


雨に透明度があるのかどうか分からなかった。


だって、雨は雨―――


でも


そうね


例えば『雨に歌えば』と『シェルブールの雨傘』では、内容も意味も違ってくる。


あたしは―――


前は『シェルブールの雨傘』が好きだった。そこにはロマンがあり、悲しみがあり、一つの男女の愛がすれ違ったまま、それでも幸せを築いた。


でも今は―――それが不憫にも思う。


あなたはそれでも幸せなの―――?


主人公のジュヌヴィエーヴにそう問いかけたくなる。


「ねぇねぇ!皆でポーカーしない?」と心音がトランプの箱をふりふりしながらニヤリと意味深な笑顔を浮かべている。


ポーカー?また心音は何か企んでいるのね。


と呆れたけれど


「面白そうね」と紫利さんが笑った。


「賭けじゃなく、一番勝った人が一番負けた人へ質問するってのはどう?負けた人はどんな質問でも正直に答えるって言うの」


何それ。


「あら、面白そう」


紫利さんは手を合わせて心音の提案に意外に乗り気。


と言うわけで、何故かポーカーをしようとしているときだった。


キッチンカウンターに乗せてあった心音のノートPCからビービーっと大きなアラームが鳴って、あたしと紫利さんはびくりと肩を震わせた。


心音だけは目を険しくさせ、さっとPCの乗ったカウンターに移動すると


キーボードに手を走らせる。


「どうしたの?」


あたしが心音に近づき、そっと聞くと


「誰かがあたしの創った偽HPのIDとPWを不正入手しようとしている」


「誰?二村さん…?は違うか」もう彼は入手済だ。それは二村さんを陥れるため、彼だけの為に作られたIDとPW。


他に一体誰が―――……


思わず額に汗が浮かんだ。


「分からない。けれど結構な腕前ね」と言ったわりに心音はどこか楽しそうだ。


それはまるでゲームを楽しんでいるような、無邪気なものだった。


「負けないわ」とキーボードに手を走らせ、やがてEnterキーをパチリと押すと、画面は真っ黒になった。


「…どうしたの…大丈夫?」思わず不安そうに聞くと


「大丈夫、あたしを誰だと思ってンの?心音サマに喧嘩売ろうってヤカラは。ウィルスを送ってやったわ」


と、ふふんと心音は笑う。



誰―――



誰がこのHPのカラクリを調べているの?



紫利さんが言った『くすんだ雨』と言うワードがやけに心に響く。