後日、源氏物語の簡易本を読むと、光源氏は紫を幼いころから近くにおき、やがて妻として向かい入れ、その後光源氏は政敵である右大臣によって須磨に左遷(?)される。そこで出会った人が“明石の君”と言う美しい女性。
彼らはすぐに恋仲になり、女の子を設ける。けれど明石の君は知っていた、京に残してきた美しい妻が居ることを、彼女の存在に気後れしてどこまでも控えめな明石。
その後光源氏は無事、都に戻ることができたものの、明石の君を明石に置いてきてしまったことを悔やむ。そのことを知りながらも黙って源氏を支える紫。その裏で嫉妬もあったろうに必死に押し隠して。
けれど、やがて光源氏は明石の君を京に呼び寄せ、紫と明石の君は初めて対面する。
そこでお互い光源氏が夢中になった女人だと言うことに気付き、互いの素晴らしさに感嘆しながらも仲良くなっていく、と言う話。
あたしが“紫”で、紫利さんは“明石”―――
そうなのかしら。光源氏が後生愛したのは紫だったけれど、彼女は身分の低さからとうとう源氏の正妻にはなれなかった。悲しいひと―――
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あたしは紫利さんをリビングに案内した。
「ステキなお部屋ね」
紫利さんは目をぱちぱちさせ、辺りを見渡している。
「いえ、それ程でも…」と言うと
「ね、ステキよね~」と心音が紫利さんの両肩にポンと手を置き
「とりあえず、飲みましょ」と言ってソファに促す。
心音……ここは一応あたしの家よ、と言うことは言えなかった。
リビングのローテーブルにはすでに三人分のうな重がセットされていた。色々調べて、美味しいと評判のうな重。取り寄せと言うか出前と言うべきか、事前に運んでもらった。
その重箱を見て紫利さんが目を開く。
「まぁ!ここ“水龍”のうな重、高いけれど美味しいって評判の。一度だけお客様の同伴でいただいたけれど、とても美味しかったのよ」
「あたし、ウナギ一度食べてみたかったの」と心音は子供のようにはしゃぐ。
実はあたしも初めて。
何故かドキドキしながらうな重を一口食べて
「んーーっ!Fantastic!美味しい」
と心音は嬉しそう。あたしも同じこと思った。
それは外はパリっとしているのに中はフワっとしていて不思議な触感だったけれど、甘辛なたれとご飯が絡まって不思議ながらも、でも美味しい。
「流石、水龍ね」と紫利さんも嬉しそうで、とりあえずほっ。
うな重を食べ終えたその後はシャンパンを飲み、再び乾杯。
幾らか打ち解けてくれた紫利さんは太い窓枠に腰掛けシャンパングラスを手にしたまま、雨空の東京を見下ろし
「雨……いつ止むかしらね」
と、一言。
「すみません、お足元悪い中お越しいただいて」と謝ると
「大丈夫よ、タクシーだし。ドア to ドアだし」とまたも気遣ってくれる。
けれどその表情はどこか曇っていた。
「嫌な雨だわ。言い方が悪いかもしれないけれど、どこか―――
くすんでいる」



