Fahrenheit -華氏- Ⅱ


でも実際『紫利さん』をはじめて見たとき、納得した。


啓がいっときであれ“恋”……と言うべきなのか、はたまた何か違う感情なのかを抱いたひと。


嫉妬していたあたしがバカみたいだった。


「あなたたちからしたら、こんなおばさん相手になるかどうか分からないけれど」


目の前の紫利さんは苦笑しながら口元に手を当てる。流れるような優雅な仕草。


「そんなこと…」と言うと


「ユカリ~~!」


と、ひょっこり心音が姿を現した。両手を広げて小走りに来ると、キュっと軽いハグ。


「あらまぁ、嬉しいわ」と紫利さんも心音の背中に手を回す。


そして


「Japanese Kimono!Wow、ホンモノ見たわ!It's beautiful!」


心音は紫利さんの周りをうろうろ。


「心音、失礼でしょ」心音を引きはがして


「いいのよ、嬉しいわ」とどこまでも大人な対応の紫利さん。


あたしはきっと―――この人にはいつまで経っても追いつけない。


けれど、追いつけないことを悲観はしていない。目指すべき女性だ。


それにしても…啓の周りには素敵な女性がたくさん。綾子さんもステキだし、紫利さんもステキだし。


「ね、源氏物語って知ってる?」


紫利さんに突如として聞かれ、あたしは少しだけ首を捻った。あまり詳しくは知らない。


「光源氏が後生愛していたのは唯一“紫”と言う女性。光源氏を啓人と例えると―――」


それって―――“紫”は紫利さん…


と思ったけれど





「あなたよ」





紫利さんが微笑を浮かべ


「きっと私たちの関係は“紫の上”と“明石の君”と言った関係かしら」


アカシのキミ―――


漢字がうまく変換できなくて首を捻っていると


「私たち、いいお友達になれる、ってことよ」


紫利さんは微笑む。




いい―――お友達になりたい。