私が紫利さんをこの家に招いた理由。
それは心音がどうしても紫利さんともう一度飲みたいと駄々をこねたから。
本当はあの大将のお店に行きたかったのだが、生憎だがこの日は貸し切り予約が入っていたみたいで、大将が大層謝っていた。
仕方の無いことだ。商売とはそう言うものだし、大将が謝ることなんて何一つない。
義理堅い人で『今度来るときはサービスするから』と言われて、あたしは恐縮しながらも電話を切った。
「心音は言い出したら聞かない子供みたいな所があるんです」
紫利さんにも申し訳なく思って頭を下げると
「あら、可愛いじゃない。嬉しいわよ、一緒に呑みたいって言ってくれて。
あのお店以外の外でも良かったけれど、また変な男に絡まれて台無しにされるのも嫌だったし。
こう言うの女子会って言うの?一度やってみたかったの」
紫利さんは妖艶に微笑む。
村木さんが紫利さんのことを『艶やか』と言った。まさにそうだ。
とても美しくて、教養もあって、上品で、気遣いができて―――色っぽい。
啓が何かの折、酔ったふしに話してくれた。
啓は紫利さんのこと、結構本気だった、と。
本気でご主人から紫利さんを奪おうと思ったこともあった。けれど紫利さんの心にはいつもご主人がいた、と。
『それに向こうは俺をいつまでも男扱いしてくれなかったし。自分の子供みたいな感じだったんじゃね?』と笑っていたっけ。
その時はちょっと嫉妬した。まだ紫利さんと会っていないときの話。
そう言われて拗ねて、啓のマンションの寝室に閉じこもったこともある。(たぶん本人酔っぱらってて忘れてるだろうけど)
最初は『瑠華~!』と寝室の扉を叩いていたものの、ものの数分で諦めたのか音はパタリと閉じ、気になってそっと扉を開けると床に啓が倒れるように眠っていた。
その後、引きずるように啓をベッドに……と言いたいところだけど、あたしではその力がなくて諦めてフローリングの床の上、そっと彼の横に横たわったっけ…
まだ秋が始まったばかりの心地良い気温のなか、フローリングは気持ち良くて、眠った筈の啓がすぐにあたしをぎゅっと抱きしめてきて、目と閉じたまま
『瑠華、大好き』
とむにゃむにゃ、寝言か…と思いながらもそれが嬉しかった。
起きた時二人して体のあちこちが痛かったのも楽しい想い出の一つだ。



