瑠華とは『雨に歌えば』を語った。
でも今は―――
『シェルブールの雨傘』の曲が脳裏を満たす。
悲恋なのか、ハッピーエンドなのか……曖昧な感じで終わる。でもラストは印象的で
若い恋人たちの熱い思い、けれど互いの立場上、成就されることもなく、別々の人生を歩んでいく。しかし思いもかけず再会して、けれど笑顔で『さよなら』
J'avais tellement peur de ne pas te retrouver.
(もう会えないんじゃないかってすごく心配だった)
Je suis si heureuse d'être avec toi.
(あなたといられてすごく嬉しい)
Maintenant je ris parce que je me rends compte combien je suis bête quand je suis toute seule.
(ねえ、笑っちゃうね、一人ぼっちになると本当に自分は、馬鹿なんだから)
俺たちの……俺と瑠華の人生もそうやってすれ違ってしまうのか。再会して笑って『さよなら』できるのだろうか。
俺は店員が傘を手に戻ってくる前に瑞野さんの手を引いて、店の外に出た。
冷たい―――雫が俺の顔やスーツ越しの肩や腕、手を打つ。瑞野さんだって同じだろう。
大股に歩いて先を急ぐ俺に、腕を掴まれたまま必死に後を追ってくる瑞野さん。
「部長…!部長っ」
そう呼ばれて俺はゆっくりと振り返った。
灰色に染まった風景はどこか滲んでいて、俺は―――ぼんやりする視界で“瑠華”を見た。
「呼んでよ、俺の名前を」
“瑞野さん”が目を開いた。
降り注ぐ雨の中、彼女の濃いめの茶色い髪が白い頬に張りついている。
その張り付いた髪を俺は両手でそっとかきあげて、彼女の両頬を手のひらで包んだ。
「呼んでよ、いつもみたいに」
滲む視界の中、俺は情けないほどバカみたいに言った。
瑠華
言葉にならなかった。
けれど俺は愛しい人の名前を確かに呼んだ。
でも愛しい人は俺の名前を呼んでくれることはなかった。
「部長……酔っぱらってらっしゃるみたいですね」
瑞野さんが困ったような、それでいて凄く悲しそうな顔で眉を寄せ、
「“あたし”は、あなたの大切なひとじゃありません」
瑞野さんがトンと俺の胸を離した。



