だが詰めた距離が思いのほか近かった。
居酒屋特有の油とアルコールの入り混じった決して上品とは言えない大衆的な匂いの中、瑞野さんが付けているのだろうか、フルーツとヴァニラを合わせたような甘い香水が鼻孔をくすぐる。
瑞野さんの顔がすぐ間近にあって、彼女もびっくりしたようだ。
しきりにまばたきをして、けれど離れていこうとはしなかった。
距離をとったのは
俺からだった―――
「ごめん、またセクハラだな~」
あはは、とバカみたいに笑い
「いえ…セクハラじゃ……ありません…」
瑞野さんは顔を赤くさせて俯きながら小さく呟く。
それから何となく恋愛話から離れるように俺は話題を変えた。
瑞野さんもそれを不思議に思った様子もなく、笑顔で聞いてくれる。
「―――で、マイフェアレディのイライザ役のヘップバーンが凄くきれいで、そこから好きになって」
「それって古い映画ですよね」
「うん、でもローマの休日の方が瑞野さん的には好きなのかな。俺はティファニーで朝食を、が結構好きだけど…」
と言ったところで、またもズキリと心臓が鳴る。
心臓―――…と言うより少し上…ちょうど瑠華がくれたアトラスのリングがある辺り。
鳴る、と言うより焼け付くように痛い。
その痛みに、思わずその場所を手で押さえていると
「マイフェアレディも、ティファニーで朝食をも見てませんが、あたしローマの休日はちらっと見たことあります」
と瑞野さんが笑ったのを見て、話を切り替えるチャンスだと思った。
「じゃさ、瑞野さんの好きな映画って何?」
「あたしですか?あんまり映画は見ない方ですが、あ…あれは好きです“ハリーポッター”」
「ハリーポッターかぁ。何気に俺も全作観た。エマ・ワトソンが結構可愛くてサ、殆どそれ目的だったけど(笑)」
と俺の答えに瑞野さんは「ふふっ」とまるで小鳥のように笑った。
「部長て素直ですね」
素直……?そんなこと言われたの初めてだ。あ、いや……瑠華にも言われたなそんなこと。
あれは―――初めて瑠華と一夜を共にした夜だった。
「普通はかっこつけて?男の人らしい映画を上げるじゃないですか。と言っても男らしい映画って何?て感じですけど。
“ワイルド・スピード”とか…?」
ふーむ…なる程。俺は車好きだけどあの映画は見てねぇな。
「あと、スタウォーズとか」
あ、そっちも観てねぇ。
「「………」」
映画の趣味が合わないことに気付いた俺たちは、早々にその話を打ち切り、違う話をすることに決めた。
瑠華とは―――映画の趣味も合って、そこに出てくる俳優や女優のことを熱く語る。(主に女優)
でも、その時の瑠華はキラキラしていて、すごく可愛いんだ。
だからこそ、
二人で居るのに
一人で居るより
寂しさが一層増す。



