Fahrenheit -華氏- Ⅱ



俺は慌てて頭を振った。


バカなことを考えている自分に嫌気がさした。


追加のビール…と言いたいところだがもう6、7杯…?はビールだ。いい加減飽きた。


追加の焼酎を頼もうとすると


「あの……ピッチが速い気がするのですが…大丈夫ですか?」


瑞野さんがおずおずと聞いてきて


「俺?俺はこんなもんよ?」と、へらっと笑った。


偽物の―――笑顔だった。


それから俺は瑞野さんとたくさん喋った。イマドキの女の子の中で流行ってる芸能人の話とかファッションとか、音楽とか。


瑞野さんはそのどの質問にも丁寧に答えてくれた。


「実はあたし、柏木補佐に憧れてて、柏木補佐みたいなファッションが好きでちょっと真似てるんです。


でも、柏木補佐みたいな高いもの買えないんで、それに似たプチプラなものなんですけど」


瑞野さんは慌てて手を振り、ちらりと舌を出す。


カシスオレンジは残り三分の一と言う程度しか減っていないのに、少し酔ったようだ。


今日はやけに饒舌だ。


「そうなの?でもあの人時々バカ高いものつけてるからね~、真似はしない方がいいよ」


と、俺は瑠華を他人事のように言う。


「木下リーダ―もオシャレで大人なかっこよさがあって、凄くステキです」


「綾子がぁ?あのオトコ女のどこがいいの?」


「木下リーダ―はステキですよ!仕事バリバリできるし、あたしには優しいし、いつもステキなスーツをビシッと着こなしてて、美人でスタイルもいいし」


まぁ?スタイルがいいことは認めるが。美人……なのか??


「まぁ客観的に見て美人の方に入ると思うが、俺はあいつを女としては見れん」


「えー?そうなんですか?木下リーダ―とは同期だと窺ってましたが、意識したことは一度も無いんですか?」


「あー、ないない!あいつにだけはない」


俺はあっさりバッサリ言い切った。


「あいつは気の合う男友達みたいなもんだから。それにあいつ付き合ってるヤツいるし。あんなオトコ女を好きになるヤツの神経が分からん。しかも綾子はジジ専だし」


タイプは俺の親父とか抜かしてたけど(あれは結構本気に違いない)そうかと思えば桐島に片思いしてたし、そして裕二に落ち着く……と言う、何て統一性のない恋愛遍歴。


それは流石に言えなかったが、


「そう……なんですね」


瑞野さんはどこかほっとしたように胸を撫で下ろし


「何、俺が本気で綾子と付き合ってるって思ってたわけ?」


俺が苦笑を浮かべると


「だって……木下リーダ―があんなに気さくに話してる人を見たのは初めてで」


「気さく…て言うか、あいついっつも俺のことディスリ過ぎ。もっと気を使えってんだ」


ぶすりと口を尖らせ


「まぁ向こうも?気の合う男友達ってとこだよな。俺もあいつも恋愛の“れ”の字もない。


大体、俺なんてあいつの眼中にもないよ。


ここだけの話、あいつジジせ…」


俺は冗談っぽく言う為、瑞野さんに顔を近づけた。


まるで内緒話をするように―――