Fahrenheit -華氏- Ⅱ


瑞野さんは悩みに悩んだ末、カシスオレンジと、店特製サラダとトマトとモッツァレラチーズのカプレーゼ、焼き鳥を頼んだ。


カシスオレンジが運ばれてきて、俺たちは普通に乾杯。瑞野さんは流石秘書と言った感じか、俺のグラスよりちょっと下の位置で乾杯。


「いただきます」と、どこまでも謙虚。


一口飲んでは、「あ、美味しいです」と顔をほころばせる。


瑠華なら―――……


ジョッキの半分ぐらいまで一気に飲み、その後……無言。


………


それってどうよ、って思っちまうけど、慣れてきたしそうやって豪快にビールを煽る女がかっこよく見えた。


でも―――今、目の前に居るのは瑞野さんだ。


運ばれてきた料理も丁寧に小皿に取り分けてくれる。


自分の分を食べては


「美味しいです」とはにかむように微笑む瑞野さん。これじゃ堕ちない男はいないよなーって思わず思った。


でも俺は


『んー、美味しい!』とそれはそれは美味しそうに笑う瑠華が好きで―――


でも、それを知ってるのはきっと






俺だけ。



俺――――だけ―――……?






ふと、箸が止まった。


今までビールを飲み続けた俺がジョッキを置き、ついでに箸も置いたから向かい側の瑞野さんが不思議そうに首を傾ける。


「どうされました?お口に合いませんでしたか?」と不安そうに目を上げる瑞野さん。


「あ……いや、何でもない」俺は慌てて箸を手に取り、カツオのたたきを口に含む。チェーン店の店だからか、パサパサしてるし弾力もない。それをたっぷりのオニオンスライス、それから生姜とニンニクで誤魔化してるって感じだな。


正直うまいとは言えなかったが


「結構うまいね」俺は瑞野さんに合わせた。


誤魔化し―――…


まさに今の俺だな。このカツオのたたきのように。


俺ってサイテー。