後に残された俺と瑞野さん。
いつもなら、このびみょーーーーな空間にどうすればいいのか戸惑うが、戸惑う気力さえ湧いてこない。
これが“投げやり”と言うものだろうか。
こうなったら俺も気さくになれる。
「女の子ならさ~、あれ好きじゃない?あれ…えっと、あの甘いやつ…オレンジ色の…」
名前が出てこない辺り、おっさんを感じる。
「オレンジの…?もしかしてカシスオレンジのことですか?」と瑞野さんに聞かれ
「そう!それっ!その名前が出てこなかったんだよね~」と笑うと、瑞野さんも笑った。
「好きです。カシスオレンジ。じゃぁそれにします」
「瑞野さんまだ何も食ってないだろ?一緒に何か食いもん頼んでいいよ」
「部長は…?」と聞かれ
「俺は……」
正直、腹は減っていない。昼にサンドイッチ一つだけ食っただけなのに。
「飲むときは基本食べないからさ~」とへらへらと笑うと
「それは危ないですよ。胃腸に負担を掛けます。何か食べてください、と言うか食べなきゃだめですよ」瑞野さんは至極真剣に身を乗り出し、いつになく訳も分からない圧を感じて
「ああ、うん……じゃぁタコワサ?」
と瑞野さんの勢いに無難なつまみを指さした。
「もっと他に胃を満たすものがいいですよ、揚げ物とか」
「揚げ物??いや、それだとビールが飲めなくなるし。胃もたれするし。どっちかって言うと刺身とか?」
「ではお刺身の盛り合わせとかいかがですか?二人でシェアすればちょうどいい感じじゃないですか?」瑞野さんがふわふわと笑う。こう言うさりげない気配りって言うの?流石秘書って感じもするが、瑠華も冷たく見えて気配り上手だ。
瑞野さんは―――
雰囲気とか、顔のパーツとか瑠華とやっぱり似ているのに、でも
似ているだけで
瑠華じゃない。
独りで居たくない、そう願った。
だから瑠華に似ている瑞野さんがタイミング良く……て言うか絶対二村が仕組んだに違いないが、居てくれて良かった…
と思いたいが、
瑞野さんと二人で居ると、一層孤独感が増した。
だって瑞野さんは―――
瑠華じゃない。
『ビールだけですか?それじゃ胃に負担が掛かります。健康管理も社会人としての常識です。しっかりと自覚してください』
ってそれはそれは冷たい言葉が返ってくるに違いないが、
瑞野さんの言葉には温かみを感じる。
でも俺は表面上のぬくもりを求めているわけじゃない。
瑠華の―――いつも言葉の裏にあるあったかい部分が
好きなんだ。
瑠華じゃないとダメなんだ。



